気になる生化学シリーズ、今回はホルモンの2回目として、個別のホルモンのお話です。
ホルモンの分類でお話した化学構造による3つの分類に従ってみていきましょう。
今回のクエスチョンはこちら、
- ホルモンはどこから分泌されるの?
- ホルモンは体のなかでなにをしているの?
- ホルモンの分泌が不足するとどうなるの?
- ホルモンの分泌が多すぎるとどうなるの?
こうした問いに答えられるよう解説したいと思います。
Contents
ペプチドホルモン
視床下部ホルモン
視床下部からは、ペプチドホルモンの各種放出・抑制ホルモンが分泌されます。
例えば、成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)、成長ホルモン抑制ホルモン、プロラクチン抑制ホルモン(ドパミン)、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)などがあります。
これらのホルモンは、下位の内分泌腺において各種ホルモンの分泌を促進したり、抑制したりする働きを持ちます。
下垂体ホルモン
脳下垂体前葉からは、ペプチドホルモンの成長ホルモン、プロラクチン、甲状腺刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモンが分泌されます。
成長ホルモン(GH)(ソマトトロピン)は、成長促進、軟骨形成、タンパク質合成、脂肪分解、血糖上昇(インスリンに拮抗)といった作用を持ちます。欠乏症として小人症、過剰症として巨人症、末端肥大が見られます。
プロラクチン(PRL)は、乳腺発育、乳汁分泌、プロゲステロン分泌促進といった作用を持ちます。分泌は妊娠中に増加し分娩時に最大となります。欠乏症として乳汁分泌停止、過剰症として乳汁漏出症が見られます。
甲状腺刺激ホルモン(TSH)は、甲状腺ホルモンのチロキシンやトリヨードチロニンの分泌を促進する作用を持ちます。TSH、FSH、LHは共通のαサブユニットをもっています。
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)は、コルチコトロピンともいい、副腎皮質ホルモンの分泌を促進する作用を持ちます。
卵胞刺激ホルモン(FSH)は、卵胞の発育・成熟させる作用を持ちます。エストロゲンの分泌も促します。男性では、精子の形成や成熟に関与します。
黄体形成ホルモン(LH)は、黄体形成、排卵誘発、プロゲステロン分泌といった作用を持ちます。男性では、アンドロゲンの分泌を促す作用を持ちます。
脳下垂体後葉からは、 ペプチドホルモンのオキシトシン、バソプレシンが分泌されます。
オキシトシン(OT)は、分娩促進、子宮筋収縮、乳汁射出といった作用を持ちます。
バソプレシン(ADH)は、抗利尿ホルモンともいい、腎集合管での水の再吸収促進、血漿浸透圧調節、血圧上昇、末梢血管収縮といった作用を持ちます。欠乏症として尿崩症、過剰症として高血圧が見られます。
消化管ホルモン
胃の幽門部、十二指腸から分泌されるガストリンは、胃酸、ペプシノーゲンの分泌促進、壁細胞増殖促進といった作用を持ちます。過剰症としてゾリンジャー・エリソン症候群、悪性貧血が見られます。
十二指腸、空腸から分泌されるセクレチンは、膵臓からの重炭酸塩分泌促進、胃酸の分泌抑制といった作用を持ちます。
十二指腸、空腸から分泌されるコレシストキニン(CCK)は、胆嚢収縮、膵酵素放出といった作用を持ちます。
膵ホルモン
膵臓のB細胞から分泌されるインスリンは、血糖低下、グルコースの細胞内への取込み促進、肝グリコーゲン合成促進、脂肪・タンパク質の合成促進、糖代謝促進、糖新生抑制、ケトン体生成抑制、脂肪分解抑制といった作用を持ちます。プロインスリンとして合成され、一部(C-ペプチド)が切断され活性を持ちます。欠乏症として糖尿病、過剰症として低血糖が見られます。
膵臓のA細胞から分泌されるグルカゴンは、血糖上昇、肝でグリコーゲン分解促進、糖新生促進といった作用を持ちます。
膵臓、視床下部から分泌されるソマトスタチンは、インスリン、グルカゴン、消化管ホルモン、GHなどの分泌を抑制する作用を持ちます。
副甲状腺ホルモン
副甲状腺(上皮小体) からは、ペプチドホルモンのパラトルモン(PTH)が分泌されます。
パラトルモンは、副甲状腺ホルモンともいい、血中Ca2+増加、骨吸収促進、腎遠位尿細管でのCa2+の再吸収促進、近位尿細管でのPの排泄促進、ビタミンD活性化といった作用を持ちます。欠乏症としてテタニー、過剰症として高カルシウム血症が見られます。
甲状腺ホルモン
甲状腺からは、ペプチドホルモンのカルシトニンが分泌されます。
カルシトニンは血中Ca2+減少、骨吸収抑制、腎でのCa2+の排泄促進といった作用を持ちます。
アミンホルモン
甲状腺ホルモン
甲状腺からは、アミンホルモンのチロキシンとトリヨードチロニンが分泌されます。
チロキシン(サイロキシン)とトリヨードチロニン(トリヨードサイロニン)の構造にはヨウ素(I)が含まれ、チロキシン1分子にはヨウ素が4つ、トリヨードチロニン1分子にはヨウ素が3つ含まれることから、それぞれT4、T3と略されます。
チロキシンとトリヨードチロニンは共通の作用を持ち、全身の代謝促進、酸素消費増大、成長促進、血糖上昇、タンパク質合成促進、異化促進、糖代謝促進、糖新生、脂肪分解促進といった作用を持ちます。
欠乏症としてクレチン病(幼児)、粘液水腫(成人)、過剰症としてバセドウ病が見られます。
松果体ホルモン
松果体からは、アミンホルモンのメラトニンが分泌されます。
メラトニンは、思春期や生体リズムと関係していることが知られます。
副腎髄質ホルモン
副腎の髄質からは、アミンホルモンのアドレナリン、ノルアドレナリンが分泌されます。
アドレナリンは、血糖上昇、血圧上昇、心拍数増加、糖質代謝亢進といった作用を持ちます。
ノルアドレナリンは、平滑筋を収縮させ血圧上昇する作用を持ちます。
ステロイドホルモン
副腎皮質ホルモン
副腎の皮質からは、ステロイドホルモンのミネラルコルチコイド、グルココルチコイドが分泌されます。
ミネラルコルチコイド(鉱質コルチコイド)とは、アルドステロンなどのホルモンを含む総称です。
これらのホルモンは、腎遠位尿細管でのNa+の再吸収、K+の排泄といった作用を持ちます。欠乏症としてアジソン病、過剰症として高血圧、低カリウム血症が見られます。
グルココルチコイド(糖質コルチコイド)とは、コルチゾールなどのホルモンを含む総称です。
これらのホルモンは、糖新生による血糖上昇、グルコース取込み抑制、肝グリコーゲン合成促進、筋タンパク質分解、脂肪分解、抗炎症作用、抗ストレス作用といた作用を持ちます。欠乏症としてアジソン病、過剰症としてクッシング症候群が見られます。
性ホルモン
精巣からは、ステロイドホルモンのアンドロゲンが分泌されます。
アンドロゲンとは、テストステロンなどのホルモンを含む総称です。
これらのホルモンは、男性二次性徴発現、精子形成、タンパク質合成促進といった作用を持ちます。
卵巣からは、ステロイドホルモンのエストロゲン、プロゲステロンが分泌されます。
エストロゲン(卵胞ホルモン)とは、エストロン(E1)、エストラジオール(E2)、エストリオール(E3)などのホルモンを含む総称です。
これらのホルモンは、女性二次性徴発現、女性性器の発育、子宮内膜増殖、排卵誘発といった作用を持ちます。
プロゲステロン(黄体ホルモン)は、子宮内膜発育、妊娠維持、乳腺発育、排卵抑制、基礎体温の上昇といった作用を持ちます。
今回のポイント
▼ペプチドホルモン
視床下部ホルモン
- 各種放出・抑制ホルモン 下位の内分泌腺において各種ホルモンの分泌を促進・抑制する。
例)成長ホルモン放出ホルモン、成長ホルモン抑制ホルモン、プロラクチン抑制ホルモン(ドパミン)、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン
下垂体ホルモン
- [脳下垂体 前葉]成長ホルモン(ソマトトロピン、GH)
◆成長促進:軟骨形成、タンパク質合成、脂肪分解、血糖上昇:インスリンに拮抗。
◆欠乏⇒小人症、過剰⇒巨人症、末端肥大 - [脳下垂体 前葉]プロラクチン(PRL)
◆乳腺発育、乳汁分泌、プロゲステロン分泌促進。分泌は妊娠中に増加し分娩時に最大。
◆欠乏⇒乳汁分泌停止、過剰⇒乳汁漏出症 - [脳下垂体 前葉]甲状腺刺激ホルモン(TSH)
◆T3,T4の分泌促進、TSH,FSH,LHは共通のαサブユニットをもつ - [脳下垂体 前葉]副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)
◆コルチコトロピンともいう。副腎皮質ホルモン分泌促進。 - [脳下垂体 前葉]卵胞刺激ホルモン(FSH)
◆卵胞の発育・成熟、エストロゲン分泌、♂精子形成・成熟 - [脳下垂体 前葉]黄体形成ホルモン(LH)
◆黄体形成、排卵誘発、プロゲステロン分泌、♂アンドロゲン分泌 - [脳下垂体 後葉]オキシトシン(OT)
◆分娩促進:子宮筋収縮、乳汁射出 - [脳下垂体 後葉]バソプレシン(抗利尿ホルモン、ADH)
◆腎集合管での水の再吸収促進:血漿浸透圧調節、血圧上昇:末梢血管収縮。
◆欠乏⇒尿崩症、過剰⇒高血圧
消化管ホルモン
- [胃 幽門部、十二指腸]ガストリン
◆胃酸、ペプシノーゲンの分泌促進、壁細胞増殖促進。
◆過剰⇒ゾリンジャー・エリソン症候群、悪性貧血 - [十二指腸、空腸]セクレチン
◆膵臓からの重炭酸塩分泌促進、胃酸の分泌抑制 - [十二指腸、空腸]コレシストキニン(CCK)
◆胆嚢収縮、膵酵素放出
膵ホルモン
- [膵臓β細胞]インスリン
◆血糖低下:グルコースの細胞内への取込み促進、肝グリコーゲン合成促進、脂肪・タンパク質の合成促進、糖代謝促進、糖新生抑制、ケトン体生成抑制、脂肪分解抑制、プロインスリンとして合成され、一部(C-ペプチド)が切断され活性をもつ。
◆欠乏⇒糖尿病、過剰⇒低血糖 - [膵臓α細胞]グルカゴン
◆血糖上昇、肝でグリコーゲン分解促進、糖新生促進
◆膵臓、視床下部 ソマトスタチン インスリン、グルカゴン、消化管ホルモン、GHなどの分泌抑制
副甲状腺(上皮小体)ホルモン
- パラトルモン(副甲状腺ホルモン、PTH)
◆血中Ca2+増加:骨吸収促進、腎遠位尿細管でのCa2+の再吸収促進、近位尿細管でのPの排泄促進、ビタミンD活性化。
◆欠乏⇒テタニー、過剰⇒高カルシウム血症
甲状腺ホルモン
- カルシトニン
◆血中Ca2+減少:骨吸収抑制、腎でのCa2+の排泄促進
▼アミンホルモン
甲状腺ホルモン
- チロキシン(サイロキシン、T4)
トリヨードチロニン(トリヨードサイロニン、T3)
◆全身の代謝促進:酸素消費増大、成長促進、血糖上昇、タンパク質合成促進。構造にヨウ素をT4は4つ、T3は3つ含む。
◆異化促進、糖代謝促進、糖新生、脂肪分解促進、
◆欠乏⇒クレチン病(幼児)、粘液水腫(成人)、過剰⇒バセドウ病
松果体ホルモン
- メラトニン
◆思春期や生体リズムと関係している
副腎髄質ホルモン
- アドレナリン
◆血糖上昇、血圧上昇、心拍数増加、糖質代謝亢進 - ノルアドレナリン
◆血圧上昇:平滑筋を収縮させ血圧上昇
▼ステロイドホルモン
副腎皮質ホルモン
- ミネラル(鉱質)コルチコイド
◆アルドステロンなど
◆腎遠位尿細管でのNa+の再吸収、K+の排泄。
◆欠乏⇒アジソン病、過剰⇒高血圧、低カリウム血症 - グルコ(糖質)コルチコイド
◆コルチゾールなど
◆血糖上昇:糖新生、グルコース取込み抑制、肝グリコーゲン合成促進、筋タンパク質分解、脂肪分解、抗炎症作用、抗ストレス作用。
◆欠乏⇒アジソン病、過剰⇒クッシング症候群
性ホルモン
- [精巣]アンドロゲン
◆テストステロンなど。
◆男性二次性徴発現、精子形成、タンパク質合成促進 - [卵巣]エストロゲン(卵胞ホルモン)
◆エストロン(E1)、エストラジオール(E2)、エストリオール(E3)
◆女性二次性徴発現、女性性器の発育、子宮内膜増殖、排卵誘発 - [卵巣]プロゲステロン(黄体ホルモン)
◆子宮内膜発育、妊娠維持、乳腺発育、排卵抑制、基礎体温の上昇