気になる生化学シリーズ、糖質、脂質に続いてタンパク質です。今回はタンパク質の1回目として、アミノ酸の種類と構造をみていきましょう。
タンパク質は体内に存在する有機化合物のなかでも最も多く存在しているものです。
機能的にも、体を構成するだけでなく、酵素、抗体、ホルモンなど生命活動にとって重要な働きをもつ物質を形成しています。
まずはいつものように国語辞典の説明を見てみましょう。
たんぱくしつ【蛋白質】(protein)-
生物体の構成成分の一つ。複雑な構造の含窒素有機化合物。基本構造は、鎖状につながった数十個以上のアミノ酸から成る。酵素をはじめ生命現象に密接な関係をもつ。動物の重要な栄養素の一つであり、工業的にも重要。単純蛋白質と複合蛋白質がある。
出典:広辞苑 第七版(岩波書店、2018)
いくつかポイントがありますね。特に、窒素を含むこととアミノ酸から成ることは構造の重要なポイントです。
タンパク質はアミノ酸から構成されます。多糖類が単糖がつながってできているように、タンパク質はアミノ酸がつながってできているのです。
今回はそんなアミノ酸について、次のポイントを中心に確認したいと思います。
- アミノ酸ってどんなもの?
- 基本の20種類のアミノ酸にはなにがあるの?
- 必須アミノ酸はどれ?
こうした問いに答えられるよう解説したいと思います。
アミノ酸の構造
アミノ酸は分子中にアミノ基(-NH2)をもつカルボン酸です。カルボン酸はカルボキシ基(-COOH)を持ちますので、つまり、アミノ酸の構造にはアミノ基とカルボキシル基を含むということになります。
アミノ基とカルボキシル基を含む構造はいろいろと考えられますが、特に、カルボキシル基が結合している炭素原子(α炭素)にアミノ基も結合しているものをα-アミノ酸といいます。
このα炭素は、側鎖(R)がHのグリシンを除いてすべて不斉炭素となり、D型とL型の鏡像異性体が存在することになりますが、タンパク質を構成するアミノ酸はL型の異性体です。
なお、構造式のRはアミノ酸の種類によって異なる部分を表しています。これをここでは側鎖と呼んでいます。もともとRは残基(residue)に由来します。残基とは、アミノ酸が多数つながってタンパク質を形成しているとき、個々のアミノ酸の構造から残っている部分という意味です。少々難しいですが、ここでは側鎖、R、残基、置換基という語句は同じ部位を指していると考えて構いません。
アミノ酸の種類
タンパク質の材料となるアミノ酸は20種類あります。
これらのアミノ酸は側鎖の性質により、中性アミノ酸、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸などに分類されます。
では、20種類のアミノ酸の名称と構造を見ていきましょう。
中性アミノ酸
側鎖が水素(H)の最も単純な構造のアミノ酸をグリシンといいます。
グリシンのα炭素は、2つの手にHがつながっている構造であるため、不斉炭素にはなりません。よって、グリシンには鏡像異性体がありません。
また、アミノ酸の名称は3文字や1文字で表記されることもあります。グリシンの場合、3文字表記ではGly、1文字表記ではGと表記されます。この表記はほかのアミノ酸と重複がないように定められています。以降、同様に各アミノ酸の表記も紹介していきます。
脂肪族アミノ酸
側鎖が炭素と水素だけで構成されるアミノ酸を脂肪族アミノ酸といいます。
脂肪族アミノ酸には、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシンがあります。
このうち、バリン、ロイシン、イソロイシンの3つは枝分かれ構造をもつことから、分枝鎖アミノ酸(BCAA、Branched Chain Amino Acid)と呼ばれます。
なお、脂肪族アミノ酸には、グリシンを含めたり、さらに芳香族アミノ酸を除くほかの中性アミノ酸を含めることもあります。
ヒドロキシアミノ酸
側鎖にヒドロキシ基(-OH)を持つアミノ酸をヒドロキシアミノ酸といいます。
ヒドロキシアミノ酸には、セリン、トレオニン(スレオニン)があります。
含硫アミノ酸
側鎖に硫黄(S)を含むアミノ酸を含硫アミノ酸といいます。
含硫アミノ酸にはシステインとメチオニンがあります。
酸アミドアミノ酸
側鎖にアミノ基(-NH2)を含むアミノ酸を酸アミドアミノ酸といいます。
酸アミドアミノ酸にはアスパラギンとグルタミンがあります。
イミノ酸
プロリンの構造は、ほかのアミノ酸と少し異なり、α炭素に結合するアミノ基が側鎖の一端と結合して環状になっています。
この構造をイミノ基といい、よって、プロリンは厳密にはアミノ酸ではなくイミノ酸に分類されます。
芳香族アミノ酸
側鎖に芳香環を含むアミノ酸を芳香族アミノ酸といいます。芳香環とは、ベンゼン環のような環状炭化水素のことです。
芳香族アミノ酸には、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンがあります。
酸性アミノ酸
側鎖が酸性を示すアミノ酸を酸性アミノ酸といいます。
酸性アミノ酸にはアスパラギン酸とグルタミン酸があります。
塩基性アミノ酸
側鎖が塩基性を示すアミノ酸を塩基性アミノ酸といいます。
塩基性アミノ酸には、リシン(リジン)、アルギニン、ヒスチジンがあります。
必須アミノ酸
ヒトが体内で合成することができないアミノ酸を必須アミノ酸といいます。
必須アミノ酸には、バリン、ロイシン、イソロイシン、トレオニン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、リシン、ヒスチジンの9種類があります。
また、アルギニンは成人では必須ではありませんが、幼児期には必須であると考えられています。
その他のアミノ酸
生命の設計図といわれるDNAには、ここまで紹介してきた20種類のアミノ酸の配列が遺伝暗号として記されています。これが、タンパク質の材料となるアミノ酸は20種類といった意味です。
ですが、生体内にはこれら20種類のほかにも、アミノ酸として構造をもつ物質が存在しています。
例えば、β-アラニン、γ-アミノ酪酸、オルニチンなどがあります。
つまり、体内に存在するアミノ酸は20種類だけではないということも知っておいてください。
今回のポイント
アミノ酸の構造
- アミノ酸は分子内にアミノ基とカルボキシ基をもつ。
- カルボキシ基(-COOH)が結合している炭素原子(α炭素)にアミノ基が
ついたものをα-アミノ酸という。 - グリシン以外のアミノ酸では、α炭素が不斉炭素となるため、鏡像異性体(D・L型)を生じるが、タンパク質を構成するアミノ酸はL型である。
アミノ酸の種類
- タンパク質の材料となるアミノ酸は20種類あり、側鎖の性質により、
中性アミノ酸、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸などに分類される。 - アミノ酸の略号として3文字または1文字の表記が用いられる。
- 脂肪族アミノ酸で側鎖に分枝のあるVal、Leu、Ileを分枝鎖アミノ酸(BCAA)という。
- プロリンの構造は厳密にはアミノ酸ではなくイミノ酸に分類される。
- 必須アミノ酸:ヒト体内で合成されない9種類のアミノ酸。また小児はアルギニンも必須とされる。
- タンパク質を構成するアミノ酸以外にも多くのアミノ酸が存在する。
超分かりやすい。