気になる生化学シリーズ、今回は糖質の3回目として、二糖類、多糖類、複合糖質をみていきましょう。
今回のクエスチョンはこちら、
- 二糖類はどんな構造をしているの?
- グルコースからできる多糖類はどんなの?
- 複合糖質はどんな組み合わせなの?
こうした問いに答えられるよう説明したいと思います。
ところで、「糖質=甘いもの」ではないことを糖質の定義でお話しましたが、実は糖質と糖では少し意味に違いがあります。国語辞典には糖のことを次のように書いてあります。
とう【糖】-
①あめ。また、サトウキビなどから製する甘味料。②水にとけて甘味を呈する炭水化物。単糖(果糖・ブドウ糖)・二糖(ショ糖・麦芽糖)など。一般にショ糖を指すことが多い。③広く、糖質、すなわち炭水化物の総称。
出典:広辞苑 第七版(岩波書店、2018)
まさに甘味とありますね。糖なら甘いイメージと結びつくのです。
甘いといえば身近にあるのはお砂糖ですが、みなさんのご家庭ではどんなお砂糖を使っていますか?ちょっと教えてもらえませんか?
お砂糖にもいろいろ種類があって使い分けるといいですよね。今回はこんなお砂糖の成分に含まれる糖質が登場します。
糖質の結合様式
まずは糖質の結合から。糖質の基本単位は単糖類でしたね。単糖はいわばブロックの1つであって、それがいくつもつながっていくことで、二糖類や多糖類ができる仕組みです。
このとき単糖がほかの単糖と結合するには、ヘミアセタール性水酸基が重要な役割を担っています。ヘミアセタール性水酸基とは、グルコースやガラクトースなどの単糖で、1位の炭素(アノマー炭素)につく水酸基のことでしたね。この水酸基は反応性に富んでいて、ほかの単糖などに向けて結合していく力を持っています。
このようにして形成される、糖とほかの糖との結合をグリコシド結合といいます。また、グルコースとグルコースの結合の場合は特にグルコシド結合とも呼ばれます。
また、グリコシド結合を表すとき、結合に関わる炭素原子の位置を炭素番号で示すことがあります。例えば、ある糖の1位の炭素(C1)と別の糖の4位の炭素(C4)の結合なら、1→4結合と表します。さらに、環状構造の単糖ではアノマー異性体がαとβのどちらであるかを示す必要もあります。例えば、さきほどの1位の炭素側の糖がαアノマーであれば、その結合はα1→4結合と表されます。
なお、ヘミアセタール性水酸基がほかの分子との結合せずに残っている状態の糖は、還元性を示します。還元性については糖質の性質で説明します。
この結合の様子も含めて、具体的にグリコシド結合によってできた糖をみていきましょう。
二糖類
ある単糖がもうひとつの単糖と結合したものを二糖類といいます。単糖が2つで二糖ですね。
単糖が2つですが、その2つは同じものでも、違うものの組合せでも構いません。
代表的な二糖類として、マルトース、ラクトース、スクロースの3つについて、構成する単糖類や結合様式などの特徴をみてください。
マルトース
2つのグルコースが結合してできた二糖類をマルトースといいます。
グルコース+グルコース=マルトース
マルトースは麦芽糖とも呼ばれます。麦芽糖というとおり、麦芽や水あめなどに多く含まれる成分です。
マルトースの結合様式はα1→4結合です。
図の左側のα-D-グルコースの1位の炭素から、右側のグルコースの4位の炭素に向けて結合している様子をみてください。このとき、右側の炭素は、図ではαアノマーで描いていますが、これはβアノマーの形もとり得ますので、結合様式は左側のグルコースのアノマー異性体のみ固定されます。
この結合は、グルコースどうしが結合して横につながっていく基本的な結合です。
マルトースを分解する酵素をマルターゼといいます。
ラクトース
ガラクトースとグルコースが結合してできた二糖類をラクトースといいます。
ガラクトース+グルコース=ラクトース
ラクトースは乳糖とも呼ばれます。乳糖というとおり、牛乳など哺乳類のミルクに含まれる二糖類です。
ラクトースの結合様式はβ1→4結合です。
この結合は、ガラクトースがβアノマーの環状構造(β-D-ガラクトピラノース)であることに注目してください。ここでも、図で右側のグルコースはαアノマーで描いていますが、α・βのいずれの形も取れます。
ラクトースを分解する酵素をラクターゼといいます。
スクロース
グルコースとフルクトースが結合してできた二糖類をスクロースといいます。
グルコース+フルクトース=スクロース
スクロースはショ糖とも呼ばれます。ショ糖はサトウキビやテンサイ(サトウダイコン)に含まれる二糖類です。このサトウキビやテンサイの抽出物を精製してお砂糖が作られています。つまり、上白糖やグラニュー糖はショ糖の結晶なのです。
スクロースの結合様式はα1→2β結合です。
この結合は、フルクトースが裏返しになっていることに注意してください。マルトースとラクトースでは、図で右側の単糖において4位の炭素が結合に関わっていましたので、いつもの向きで描いて問題ありませんでしたが、スクロースでは、図で右側になるフルクトースにおいて2位の炭素が結合に関わっていますので、便宜上このように裏返した描かれ方をすることがあります。
さらに、このフルクトースの2位の炭素はアノマー炭素ですので、この結合を作ると環状構造が固定されてしまいます。つまり、フルクトースの形は必ずβ-D-フルクトフラノースとなります。そのためスクロースの結合様式は、α1→2β結合と両側のアノマー異性体まで指定した表現で示されます。
スクロースを分解する酵素をスクラーゼといいます。
多糖類
二糖類から、さらに多数の単糖が結合して、長い糖鎖がつくられます。
そのつながっている単糖の数が3個から十数個までのものをオリゴ糖類、それ以上多数なら多糖類と呼ばれます。
また、多糖類のうち、1種類の単糖から構成されるものをホモ多糖、複数種類の単糖から構成されるものをヘテロ多糖といいます。
ここでは代表的なホモ多糖として、デンプン、グリコーゲン、セルロースを見てみましょう。
デンプン
デンプンはお米やジャガイモの成分として身近なものですね。
その構造はグルコースだけが多数つながったホモ多糖ですが、そのつながり方からアミロースとアミロペクチンに分けられます。
アミロースはマルトースがさらに横にずっと伸びていったものです。
アミロースの結合様式は、マルトースと同様にα1→4結合です。どこまでいってもα1→4結合のみで、ずーっと横に伸びた直鎖状の構造をしています。
これに対し、アミロペクチンは直鎖状に伸びるだけでなく、ところどころで枝分かれをした分枝構造をもちます。
分枝を起こすのがα1→6結合です。ある1つのグルコースが起点となって、α1→4結合で直鎖状に伸びる一方、α1→6結合で別の方向にも鎖を伸ばすのです。これによって、枝分かれ構造が作られます。
アミロペクチンは、この枝分かれした網目状の構造によって、弾力をもちます。お米では、そのデンプンに成分としてアミロペクチンが多く含まれるほうが、弾力があってもっちりとしたお米になります。
アミロース、アミロペクチンともにアミラーゼで分解されてマルトースを生じます。
グリコーゲン
デンプンは植物が糖質を貯蔵するために作るものですが、それに対し動物が体内で糖質を貯蔵するために作るものがグリコーゲンです。グリコーゲンは肝臓や筋肉に多く貯蔵されます。
グリコーゲンの構造は基本的にアミロペクチンと同様です。ただし、アミロペクチンに比べ、グリコーゲンのほうがα1→6結合が多い(グルコース数個ごとに1回)ため枝分かれが多くなります。枝分かれが多いことは、末端が多くできることになり、末端が多いとグルコースの付け外しを効率的に行うことができます。
グリコーゲンもアミラーゼによって分解されてマルトースを生じます。
セルロース
セルロースは植物の細胞壁を構成する成分です。天然の繊維で加工して様々なものに利用されていますね。身近な紙や、医療で使う人工透析膜にも使われています。
セルロースの構造は、デンプンやグリコーゲンと同じく、グルコースだけが多数つながったホモ多糖ですが、その結合様式が違う点に注目してください。
セルロースの結合様式はβ1→4結合です。直鎖状で分枝はありません。
人の体内にはセルロースのβ1→4結合を分解する酵素(セルラーゼ)がありません。そのため、植物を食べてもセルロースは体内で分解されないのです。
複合糖質
糖質はエネルギー源として重要な役割をもつほかにも、生体内で様々な働きに関わっています。そのとき、糖質が単独ではなく、ほかの物質と結合することがあり、糖鎖がタンパク質や脂質に結合したものを複合糖質といいます。複合糖質には、糖タンパク質、プロテオグリカン、糖脂質などがあります。
糖タンパク質
糖鎖がタンパク質と結合したものを糖タンパク質といいます。
例えば、ABO式血液型の違いは、赤血球表面にある糖タンパク質の構造のわずかな違いです。A型の人がもつA抗原と、B型の人がもつB抗原では、たった1か所構成している単糖が異なるだけです。
ほかに、動物の結合組織で細胞外マトリックスを構成する成分として多くの糖タンパク質の存在が知られ、これらをグリコサミノグリカン(GAG)(旧名:酸性ムコ多糖)といいます。グリコサミノグリカンは、保水性に優れ、特徴的な構造をもっています。
グリコサミノグリカンの構造は分枝がない長鎖で、基本的にはアミノ糖とウロン酸からなる二糖単位の繰り返し構造で構成されています。また硫酸基を多く含み、ウロン酸のカルボキシル基とともに負電荷を強めていることも特徴的です。
代表的なグリコサミノグリカンとして、ヒアルロン酸とヘパリンをみてみましょう。
ヒアルロン酸
ヒアルロン酸はグルクロン酸とN-アセチルグルコサミンの繰り返し構造です。
ヘパリン
ヘパリンはL-イズロン酸2-硫酸とN-スルホグルコサミン6-硫酸の繰り返し構造です(ほかのバリエーションもあります)。
構造のなかに硫酸基(-SO3H)が含まれていて、より負電荷が強まっています。
プロテオグリカン
ヒアルロン酸やヘパリンなどのグリコサミノグリカンは、タンパク質をコアとしてたくさん集まって大きな集団を形成されることが知られています。これをプロテオグリカンといいます。
プロテオグリカンでは1本のタンパク質に数十本のグリコサミノグリカンが結合しています。
今回のポイント
糖の結合様式
- 糖と糖の結合をグリコシド結合という。グルコースどうしの結合は特にグルコシド結合という。
- 環化糖におけるアノマー炭素の水酸基(ヘミアセタール性水酸基)は反応性に富む。この水酸基が他の化合物の水酸基やアミノ基と縮合することによって、グリコシド結合が形成される。
- 他の分子に結合していないアノマー炭素の水酸基は還元性を示す。
- グリコシド結合を表すとき、結合に関わる炭素原子の位置を炭素番号で示す。 例)α1→4:ある糖のα異性体のC1と別の糖のα異性体のC4の結合
二糖類、多糖類
- 2つの糖がグリコシド結合したものを二糖類という。さらに結合してつながっている糖の数が十数個程度までをオリゴ糖類、それ以上多数なら多糖類という。多糖類のうち、1種類の単糖から構成されるものをホモ多糖、複数種類の単糖から構成されるものをヘテロ多糖という。
複合糖質
- 複合糖質:糖鎖がタンパク質や脂質に結合したもので、糖タンパク質、プロテオグリカン、糖脂質がある。
- 糖タンパク質:糖質がタンパク質と結合したもの。動物の結合組織で細胞外マトリックスを構成する成分として、グリコサミノグリカン(GAG)(旧名:酸性ムコ多糖)がある。保水性に優れ、動物の結合組織で細胞外マトリックスを構成するものが多い。GAGの構造は分枝がない長鎖で、基本的にはアミノ糖とウロン酸からなる二糖単位の繰り返し構造で構成される。また硫酸基を多く含み、ウロン酸のカルボキシル基とともに負電荷を強めている。
- タンパク質をコアとしてGAGの糖鎖が数十本結合したものをプロテオグリカンという。