生化学

水溶性ビタミン

気になる生化学シリーズ、今回はビタミンの3回目として、水溶性ビタミンのお話です。

水溶性ビタミンは、水に溶けやすい親水性のビタミンで、血液など体液に溶け込みますが、必要以上に摂取しても余分は尿として排泄されます。そのため、過剰症が起こりにくい一方、必要量を毎日摂取する必要があります。

水溶性ビタミンには、ビタミンB群、ビタミンCがあります。

今回のクエスチョンはこちら、

  • 水溶性ビタミンの正体はどんな物質なの?
  • ビタミンBと補酵素の関係は?
  • 水溶性ビタミンは体のなかでなにをしているの?
  • 水溶性ビタミンが不足するとどうなるの?

こうした問いに答えられるよう解説したいと思います。

ビタミンB群

ビタミンB群は補酵素の一部となって酵素反応に関わっているビタミンです。

ビタミンB1

ビタミンB1は、化学名でチアミンという物質で、生体内では補酵素のチアミン二リン酸(TDP、チアミンピロリン酸、TPPの構成成分となります。

チアミン二リン酸は、糖質代謝や分枝鎖アミノ酸代謝の補酵素として働きます。関与する酵素には、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、2-オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ、トランスケトラーゼ、分枝アミノ酸デヒドロゲナーゼなどがあります。

糖質代謝に関連するため、ビタミンB1が不足するとエネルギー産生に支障が生じ、エネルギー消費の大きい神経や心臓の機能に障害が生じます。脚気は代表的なビタミンB1の欠乏症で、末梢神経の障害から、倦怠感、足のしびれやむくみ、動悸、息切れなどの症状が現れます。

ビタミンB1は米ぬか、小麦、豚肉などに多く含まれています。江戸時代~明治時代のころ、精米した白米を食べる習慣が広まると、脚気が国民病といわれるほど大流行したことがありました。ビタミンB1が多く含まれるお米の胚芽部分が精米で取り除かれてしまったことが要因です。

ほかのビタミンB1の欠乏症として、ウェルニッケ脳症では、中枢神経の障害から、意識障害、眼球運動の異常、運動失調などの症状が現れます。

また、アルコールの分解には多量のビタミンB1が必要なため、アルコールを大量に摂取すると、ビタミンB1の欠乏症が現れることがあります。

ビタミンB2

ビタミンB2は、化学名でリボフラビンという物質で、生体内では補酵素のフラビンモノヌクレオチド(FMN)フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)の構成成分となります。

FMNやFADは、エネルギー代謝(クエン酸回路、β酸化など)における酸化還元反応で補酵素や補欠分子族として、水素や電子の運搬に働きます。関与する酵素には、コハク酸デヒドロゲナーゼなどがあります。

ビタミンB2が欠乏した場合には、口唇炎、口角炎、口内炎、舌炎、脂漏性皮膚炎などの症状が現れます。

ナイアシン

ナイアシンは、ニコチン酸ニコチンアミドという物質の総称で、生体内では補酵素のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)の構成成分となります。

NADやNADPは、酸化還元反応で特に脱水素酵素(デヒドロゲナーゼ)の補酵素として、水素の運搬に働きます。関与する酵素には、乳酸デヒドロゲナーゼなどがあります。

ナイアシンは、ビタミンB3ともいわれますが、アミノ酸のトリプトファンから生体内で合成することもできますので、厳密にはビタミンではありません。

ナイアシンの欠乏症にペラグラがあり、皮膚炎、下痢、認知症の3徴候が現れます。

パントテン酸

パントテン酸は、ビタミンB5ともいわれる物質で、生体内では補酵素の補酵素A(CoA、コエンザイムA)の構成成分となります。

補酵素Aは、糖質代謝や脂質代謝など多くの反応でアシル基(RCO-)を転移する反応の補酵素として働きます。関与する酵素には、アセチルCoAシンテターゼなどがあります。

パントテン酸は、生体内で腸内細菌からも供給されるため、欠乏症はまれですが、欠乏した場合には、倦怠感、成長停止、皮膚炎、副腎異常(動物)などの症状が現れます。

ビタミンB6

ビタミンB6は、化学名でピリドキシンピリドキサールピリドキサミンという物質で、生体内では補酵素のピリドキシンリン酸(PNP)ピリドキサールリン酸(PLP)ピリドキサミンリン酸(PMP)の構成成分となります。

ピリドキサールリン酸は、アミノ酸代謝におけるアミノ基転移反応の補酵素として働きます。関与する酵素には、トランスアミナーゼ(AST、ALT)などがあります。

ビタミンB6も、生体内で腸内細菌からも供給されるため、欠乏症はまれですが、欠乏した場合には、痙攣、貧血、脂漏性皮膚炎、口内炎などの症状が現れます。

ビオチン

ビオチンは、ビタミンHあるいはビタミンB7ともいわれる物質で、そのままビオチンあるいはビオシチンとして補酵素として働きます。ビオシチンは、ビオチンのカルボキシ基が酵素のリシン残基のアミノ基とアミド結合したものです。

ビオチンは、糖新生や脂肪酸合成におけるカルボキシル基転移反応や炭酸固定反応の補酵素として働きます。関与する酵素には、アシルCoAカルボキシラーゼ、ビオチンカルボキシラーゼなどがあります。

ビオチンはレバー、卵黄、豆類などに多く含まれています。ビオチンも、生体内で腸内細菌からも供給されるため、欠乏症はまれですが、卵白に含まれるアビジンはビオチンと強く結合してビオチンの吸収を妨げるため、生卵白をたくさん摂取するとビオチンの欠乏症が現れることがあります。

ビオチンが欠乏した場合には、皮膚炎などの症状が現れます。

葉酸

葉酸は、化学名でプテロイルグルタミン酸という物質で、生体内では補酵素のテトラヒドロ葉酸(THF、FH4の構成成分となります。葉酸はビタミンMあるいはビタミンB9とも呼ばれます。

葉酸は、核酸の合成、アミノ酸代謝、メチル基など一炭素基の転移反応の補酵素として働きます。関与する酵素には、セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼなどがあります。

葉酸が欠乏した場合には、巨赤芽球性貧血、胎児の二分脊椎などの症状が現れます。胎児の発育に多くの葉酸が必要とされるため、母体が妊娠前後に葉酸を摂取することで、胎児の二分脊椎の発症リスクを低減できるといわれます。

ビタミンB12

ビタミンB12は、化学名でコバラミンという物質で、生体内では補酵素のアデノシルコバラミン(AdoB12メチルコバラミン(MeB12の構成成分となります。

分子内にコバルト(Co)を配位結合しているためコバラミンと呼ばれます。

ビタミンB12核酸の合成、アミノ酸代謝、メチル基転移反応の補酵素として働きます。関与する酵素には、メチオニンシンターゼなどがあります。

ビタミンB12はレバー、魚介類などに多く含まれていますが、植物には含まれていないため、ベジタリアンの人に欠乏が多く見られます。また、ビタミンB12は胃から分泌される内因子と結合して回腸から吸収されるため、胃切除などで内因子が不足すると、ビタミンB12が欠乏します。

ビタミンB12が欠乏した場合には、巨赤芽球性貧血の症状が現れます。巨赤芽球性貧血で、内因子不足によるビタミンB12欠乏を原因とするものを悪性貧血といいます。

ビタミンC

ビタミンCは、化学名でアスコルビン酸という物質です。また、酸化型のデヒドロアスコルビン酸もアスコルビン酸と同様に働きます。

ビタミンCは抗酸化作用をもちます。強い還元力をもち、活性酸素の発生やその働きを抑えます。

また、ビタミンCはコラーゲン合成におけるプロリンやリシン残基の水酸化反応の補酵素として働きます。コラーゲンの基本構造は、3本のポリペプチド鎖による三重らせん構造であり、各ポリペプチド鎖はグリシン、プロリン、ヒドロキシプロリンの3つのアミノ酸の繰り返し配列でできています。ビタミンCが不足すると、このヒドロキシプロリンの合成が妨げられるため、コラーゲンの構造が不安定になります。その結果、結合組織の結合力低下による易出血性(出血しやすくなる)、骨・筋の脆弱化などの症状を呈する壊血病が現れます。

なお、小児における壊血病をメラーバロウ病といい、骨形成障害も見られます。

ビタミンCはほかに、腸管でのの吸収(Fe3+→Fe2+への還元)、芳香族化合物の水酸化などにも働きます。

ビタミンCは果物や野菜に多く含まれています。ビタミンCは最も多量に必要とされるビタミンで、成人1日あたりの推奨量は100 mgとされます。

今回のポイント

Check!

ビタミンB

ビタミンB群は補酵素の一部となって酵素反応に関わる。

  • ビタミンB1
    ・化合物名:チアミン
    ・補酵素名:チアミン二リン酸(TDP)(チアミンピロリン酸、TPP)
    糖質代謝や分枝鎖アミノ酸代謝の補酵素
    ◆例)ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、2-オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ、トランスケトラーゼ
    ・欠乏症:脚気(末梢神経障害)、ウェルニッケ脳症
  • ビタミンB2
    ・化合物名:リボフラビン
    ・補酵素名:フラビンモノヌクレオチド(FMN)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD
    ◆エネルギー代謝(クエン酸回路、β酸化など)における酸化還元反応の補酵素や補欠分子族として、水素や電子を運搬する
    ◆例)コハク酸デヒドロゲナーゼ
    ・欠乏症:口唇炎、口角炎、口内炎、舌炎、脂漏性皮膚炎
  • ナイアシン
    ・別名:ビタミンB3
    ・化合物名:ニコチン酸、ニコチンアミド
    ・補酵素名:ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP
    ◆酸化還元反応で特に脱水素酵素(デヒドロゲナーゼ)の補酵素として、水素を運搬する
    ◆例)乳酸デヒドロゲナーゼ
    ◆生体内でトリプトファンからも合成される
    ・欠乏症: ペラグラ(皮膚炎、下痢、認知症)
  • パントテン酸
    別名:ビタミンB5
    ・補酵素名:補酵素A(CoA、コエンザイムA)
    ◆糖質代謝や脂質代謝など多くの反応でアシル基(RCO-)を転移する反応の補酵素
    ◆例)アセチルCoAシンテターゼ
    ◆腸内細菌により合成される
    ・欠乏症:倦怠感、成長停止、皮膚炎、副腎異常(動物)
  • ビタミンB6
    ・化合物名:ピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサミン
    ・補酵素名:ピリドキシンリン酸(PNP)、ピリドキサールリン酸(PLP)、ピリドキサミンリン酸(PMP)
    ◆アミノ酸代謝におけるアミノ基転移反応の補酵素
    ◆例)トランスアミナーゼ(AST、ALT)
    ◆腸内細菌により合成される
    ・欠乏症:痙攣、貧血、脂漏性皮膚炎、口内炎
  • ビオチン
    ・別名:ビタミンH
    ・補酵素名:ビオチン、ビオシチン
    ◆糖新生や脂肪酸合成におけるカルボキシ基転移反応や炭酸固定反応の補酵素
    ◆例)アシルCoAカルボキシラーゼ、ビオチンカルボキシラーゼ
    ◆腸内細菌により合成される
    ◆卵白中のアビジンと強く結合する
    ・欠乏症:皮膚炎
  • 葉酸
    ・別名:ビタミンM
    ・化合物名:(プテロイルグルタミン酸)
    ・補酵素名:テトラヒドロ葉酸(THF、FH4)
    核酸の合成、アミノ酸代謝、メチル基など一炭素基の転移反応の補酵素
    ◆例)セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ
    ・欠乏症:巨赤芽球性貧血、胎児の二分脊椎
  • ビタミンB12
    ・化合物名:(コバラミン)
    ・補酵素名:アデノシルコバラミン(AdoB12)、メチルコバラミン(MeB12
    核酸の合成、アミノ酸代謝、メチル基転移反応の補酵素
    ◆例)メチオニンシンターゼ
    ◆構造にコバルトを配位結合している
    ◆胃から分泌される内因子と結合して回腸から吸収される→胃切除が欠乏の原因となる
    ・欠乏症:巨赤芽球性貧血(悪性貧血

ビタミンC

  • 化合物名:アスコルビン酸、酸化型はデヒドロアスコルビン酸。
    ・ 機能・作用:
    抗酸化作用をもつ。強い還元力をもち、活性酸素の発生や働きを抑える。
    コラーゲンの合成。プロリンやリシン残基の水酸化反応の補酵素として働く。
    ③ 腸管での鉄の吸収(Fe3+→Fe2+への還元)
    ④ 芳香族化合物の水酸化
    ・ 欠乏症:壊血病(組織の結合力低下による易出血性、骨・筋の脆弱化)。小児ではメラーバロウ病。
    ・ 最も多量に必要とされるビタミンである。推奨量100 mg/日(成人)。

はなたか先生
はなたか先生
今回はここまで!

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