気になる生化学シリーズ、今回はビタミンの2回目として、脂溶性ビタミンのお話です。
脂溶性ビタミンは、水に溶けにくく油に溶けやすい疎水性のビタミンで、脂肪や胆汁酸とともに小腸で吸収され、主に肝臓や脂肪組織に蓄えられます。そのため、体内に蓄えることができますが、過剰に摂取すると過剰症を起こすこともあります。
脂溶性ビタミンには、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKの4種類があります。
今回のクエスチョンはこちら、
- 脂溶性ビタミンの正体はどんな物質なの?
- 脂溶性ビタミンは体のなかでなにをしているの?
- 脂溶性ビタミンが不足するとどうなるの?
- 脂溶性ビタミンを摂取しすぎるとどうなるの?
こうした問いに答えられるよう解説したいと思います。
ビタミンA
ビタミンAは、化学名でレチノール、レチナール、レチノイン酸という物質です。これらを総称してレチノイドと呼びます。
目の網膜で光を感じる細胞(桿体細胞、錐体細胞)には、ロドプシンやヨドプシンという光を受けて構造変化する物質(視物質)がありますが、その成分にレチナールが含まれています。そのため、ビタミンAが不足すると視物質が不足し、暗い所でものが見えにくくなる夜盲症(暗順応低下)が生じます。
また、ビタミンAはホルモンの様に作用して、上皮組織の維持、細胞の増殖・分化、精子形成などにも重要な働きをもちます。
緑黄色野菜に含まれるカロテン、蜜柑・柿などに含まれるクリプトキサンチンはビタミンAの前駆体となる物質でプロビタミンAと呼ばれます。これらは小腸粘膜上の酵素によって分解され、例えばβ-カロテンは2分子のレチノールになります。
小腸で吸収されたレチノールは、血液中のレチノール結合タンパク質(RBP)と結合して各組織へ運ばれます。また、脂肪酸と結合して脂肪酸エステルの形で肝臓に貯蔵されます。
ビタミンAが欠乏した場合には、夜盲症のほか、成長障害、皮膚や粘膜上皮の角化、免疫能の低下などの症状が現れます。
一方、過剰に摂取しすぎた場合には、脳圧亢進(頭痛、嘔吐)、食欲不振、四肢の痛み、肝障害、脱毛などの症状が見られます。
ビタミンD
ビタミンDは、化学名でカルシフェロールという物質です。具体的には、ビタミンD2はエルゴカルシフェロール、ビタミンD3はコレカルシフェロールです。
ビタミンDもホルモンの様に作用して、小腸でのカルシウムやリンの吸収、および腎臓でのカルシウムの再吸収を促進し、骨芽細胞には骨の形成と成長を促します。
シイタケなどのキノコ類にはプロビタミンD2のエルゴステロールが含まれています。一方、ヒトの皮膚の細胞にはプロビタミンD3の7-デヒドロコレステロールが含まれています。これらのプロビタミンDは紫外線の照射を受けてビタミンDに変化します。そのため、日照時間や日に当たる時間の長さが短いと、ビタミンDの欠乏症をきたすことがあります。
さらにビタミンDは、肝臓で水酸化されて(OH基が付加されて)25-(OH)-ビタミンDとなったのち、腎臓でさらに水酸化されて、活性型の1,25-(OH)2-ビタミンDとなったものがホルモン様の作用を示します。栄養学的には血中の25-(OH)-ビタミンD の濃度が、ビタミンDの摂取状態の指標として用いられます。
ビタミンDが欠乏した場合には、カルシウムやリンの不足によって骨の石灰化に異常が起こり、小児ではくる病(骨成熟異常)、成人では骨軟化症(骨ミネラル喪失)などの症状が現れます。また、血中カルシウムイオン濃度を高めようとして、血中の副甲状腺ホルモン濃度が上昇します。
一方、過剰に摂取しすぎた場合には、高カルシウム血症、骨過剰石灰化、腎障害などの症状が見られます。
ビタミンE
ビタミンEは、化学名でトコフェロール、トコトリエノールという物質です。なかでも、α-トコフェロールの生理活性が最も高いといわれます。
ビタミンEは抗酸化作用をもちます。活性酸素によって脂質が酸化されると、動脈硬化、がん、老化などにつながりますが、ビタミンEは細胞膜で活性酸素の発生やその働きを抑え、脂肪酸の酸化を防ぎ、細胞膜の安定化に働きます。
ビタミンEはアーモンドや植物油に多く含まれています。
ビタミンEが欠乏した場合には、溶血性貧血、不妊(ラット)などの症状が現れます。
ビタミンK
ビタミンK1はフィロキノン、ビタミンK2はメナキノン、ビタミンK3はメナジオンという化学名の物質です。
ビタミンKは血液凝固に関わる酵素反応を助ける働きがあります。血液凝固因子のプロトロンビンが肝臓で生成される過程で、ビタミンKを必要とする酵素(ビタミンK依存性カルボキシラーゼ)が存在します。ビタミンK依存性カルボキシラーゼは、プロトロンビン前駆体中のグルタミン酸残基をカルボキシル化し、γ-カルボキシグルタミン酸(Gla)残基に変えます。その結果、プロトロンビンはカルシウムイオンと結合して血液凝固に働きます。なお、抗凝固薬のワルファリンはビタミンKの働きを妨げることで、血液凝固を防ぎます。
また、ビタミンK依存性カルボキシラーゼは、骨に含まれるオステオカルシンというタンパク質の生成にも働きますので、オステオカルシンの生成にもビタミンKが必要となります。
ビタミンK1のフィロキノンは植物の葉緑体に存在するため、緑色野菜に多く含まれています。一方、ビタミンK2のメナキノンは微生物が産生するもので、チーズやヨーグルト、納豆など発酵食品に多く含まれています。また、腸内細菌もビタミンK2を産生します。上記のワルファリンを服薬しているときは、ビタミンKが含まれる食品を避ける必要があります。
ビタミンKが欠乏した場合には、易出血性(新生児)、血液凝固障害、骨形成障害などの症状が現れます。
一方、過剰に摂取しすぎた場合には、溶血性貧血(新生児)、高ビリルビン血症などの症状が見られます。
今回のポイント
脂溶性ビタミン
ビタミンA、E、Kはイソプレン構造、プロビタミンDはステロイド構造をもつ。
- ビタミンA
・化合物名:レチノール(アルデヒド型:レチナール、カルボン酸型:レチノイン酸)総称:レチノイド
◆網膜の細胞(桿体細胞、錐体細胞)でロドプシンやヨドプシンなどの視物質の成分となる。また、ホルモン様に作用して、上皮組織の維持、細胞の増殖・分化、精子形成などにも重要な働きをもつ。
◆プロビタミンAとしてカロテンやクリプトキサンチンがあり、これらは小腸粘膜上の酵素によって分解され、β-カロテンは2分子のレチノールになる。
◆小腸で吸収されたレチノールは、血液中のレチノール結合タンパク質(RBP)と結合して各組織へ運ばれる。また、脂肪酸と結合して脂肪酸エステルの形で肝臓に貯蔵される。
・欠乏症:夜盲症(暗順応低下)、成長障害、皮膚や粘膜上皮の角化、免疫能の低下
・過剰症:脳圧亢進(頭痛、嘔吐)、食欲不振、四肢の痛み、肝障害、脱毛 - ビタミンD
・化合物名:(カルシフェロール)(D2:エルゴカルシフェロール、D3:コレカルシフェロール)
◆ホルモン様に作用し、小腸でのカルシウムやリンの吸収、および腎臓でのカルシウムの再吸収を促進し、骨芽細胞には骨の形成と成長を促す。
◆プロビタミンD2はエルゴステロール、D3は7-デヒドロコレステロール。プロビタミンDは紫外線の照射でビタミンDになる。
◆ビタミンDは肝臓および腎臓で水酸化され活性型(1,25-(OH)2-ビタミンD)となる。
・欠乏症: 小児:くる病(骨成熟異常)、成人:骨軟化症(骨ミネラル喪失)
・過剰症:高カルシウム血症、骨過剰石灰化、腎障害 - ビタミンE
・化合物名:(トコフェロール、トコトリエノール)
◆α-トコフェロールの生理活性が最も高い。
◆抗酸化作用をもつ。活性酸素の発生やその働きを抑え、脂肪酸の酸化を防ぎ、細胞膜の安定化に働く。
・欠乏症: 溶血性貧血、不妊(ラット) - ビタミンK
・化合物名:(K1:フィロキノン、K2:メナキノン、K3:メナジオン)
◆血液凝固に関わる酵素反応を助ける。血液凝固因子のプロトロンビンの生成にビタミンK依存性カルボキシラーゼが働く。抗凝固薬ワルファリンはビタミンKの働きを妨げることで血液凝固を防ぐ。
◆オステオカルシンの生成にもビタミンKが必要。
◆ビタミンK1のフィロキノンは植物の葉緑体に存在。ビタミンK2のメナキノンは微生物(納豆菌、腸内細菌など)が産生する。
・欠乏症: 易出血性(新生児)、血液凝固障害、骨形成障害
・過剰症:溶血性貧血(新生児)、高ビリルビン血症