気になる生化学シリーズ、今回は無機質のお話です。
今回のクエスチョンはこちら、
- そもそも無機質ってなに?
- 無機質と電解質の違いは?
- 細胞内と細胞外の電解質の違いは?
- 無機質は体のなかでなにをしているの?
こうした問いに答えられるよう解説したいと思います。
Contents
人体構成元素
生体を構成する元素の回では、たった4種類(C、H、O、N)の元素で体の96%ができていることをお話しました。これらは糖質、脂質、タンパク質、核酸といった主要な有機化合物を構成する元素です。
これら4種類の元素以外に生体に含まれる元素のことを無機質(ミネラル)といいます。無機質は、三大栄養素やビタミンとともに、ヒトが健康に生きていくために必要不可欠な物質です。
無機質は、そのなかでも比較的多く存在する多量元素と、それ以外の微量元素にわけられます。
生体元素を整理すると次のようになります。
C、H、O、N
Ca、P、S、K、Na、Cl、Mg
Fe、F、Si、Zn、Sr、Rb、Br、Pb、Mn、Cu、Al、Cd、Sn、Ba、Hg、Se、I、Mo、Ni、B、Cr、As、Co、V、Si
電解質
体液中にはたくさんの無機質がイオン化した状態で存在しています。これらの元素のように、水溶液中でイオンを形成し電導性をもつ物質を電解質といいます。
体内では、電解質の種類や量が一定の状態に保たれています。例えば、細胞内液には、K+、Mg2+、HPO42−が多く存在しています。一方、細胞外液(血漿)には、Na+やCl−が多く存在しています。
こうした電解質の量を表す際の単位として規定度が用いられます。規定度は溶液、濃度のところで出てきましたね。
溶液1 L中に含まれる溶質の当量(equivalent)数。
単位は[Eq/L]または[N]
なお、上図の単位[mEq/L]は[Eq/L]の1000分の1の濃度です。
規定度という単位がちょっと難しく感じさせますが、規定度は酸・塩基反応で生じるH+またはOH−のモル濃度に相当しますので、電解質の単位を規定度で表すことによって体内の陽イオン、陰イオンのバランスを理解しやすくなります。
主な無機質
生体内における主な無機質の分布や機能を見ていきましょう。
カルシウム(Ca、Ca2+)
カルシウムは、最も多い無機質で、体内で99%が骨や歯に含まれています。骨や歯では、細胞外でハイドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)を形成し、硬度を発揮しています。
カルシウムの残り1%は、血液や神経、筋に存在します。 神経の興奮や筋肉の収縮にカルシウムが関与するため、血清中のカルシウムが欠乏するとテタニー(神経・筋の興奮性が増し、痙攣する)の症状が現れます。
カルシウムはほかに、血液凝固、細胞の分泌、酵素の補因子(α-アミラーゼなど)、細胞内シグナル伝達に働きます。
血清カルシウム濃度は、副甲状腺ホルモン(パラトルモン)やビタミンDによって増加し、カルシトニンによって減少します。
カルシウムが欠乏した場合に、低カルシウム血症、骨・歯の石灰化遅延、骨の脆弱化、くる病、骨粗鬆症、テタニー(神経・筋の興奮性が増し、痙攣)などの症状が見られます。
一方、過剰に摂取しすぎた場合に、高カルシウム血症、ミルクアルカリ症候群などの症状が見られます。
リン(P、HPO42−、PO43−)
リンは、カルシウムに次いで多い無機質で、体内で80%が骨や歯に含まれています。骨や歯では、カルシウムやマグネシウムの塩となり、リン酸カルシウムやリン酸マグネシウムとして存在します。
ほかには、リン脂質(グリセロリン脂質、スフィンゴリン脂質)や核酸(DNA、RNA、ATPなど)にもリン酸(H3PO4)として多くのリンが含まれています。
また、細胞内液にはリン酸一水素イオン(HPO42−)として多くのリンが存在し、浸透圧やpHの調節に働いています。
リンはほかに、リンタンパク質、補酵素の成分として働きます。
血清リン濃度は、ビタミンDによって増加し、副甲状腺ホルモン(パラトルモン)やカルシトニンによって減少します。
マグネシウム(Mg、Mg2+)
マグネシウムは、体内で70%が骨や歯、20%が筋肉中に含まれています。骨や歯では、カルシウムやリンとともに、リン酸塩や炭酸塩として存在します。
細胞内液にマグネシウムイオンが多く、多くの酵素の補因子(特にキナーゼ類、ムターゼ類、ホスファターゼ類)として重要な金属イオンです。
マグネシウムが欠乏した場合に、成長遅延、痙攣、心機能低下、虚血性心疾患などの症状が見られます。
一方、過剰に摂取しすぎた場合に、筋力低下、昏睡などの症状が見られます。
ナトリウム(Na、Na+)
ナトリウムは、細胞外液で最も多い陽イオンです。
細胞膜上のナトリウムポンプの働きによって細胞内から細胞外へ汲み出され、静止状態の膜電位(静止電位)の発生に関与しています。
また、ナトリウムは体液の浸透圧維持に関与し、腎臓におけるナトリウムの再吸収の調節は体内の水分量にも影響します。副腎皮質ホルモンのアルドステロンは、腎遠位尿細管でのナトリウムイオンの再吸収を促進します。
ほかにナトリウムは、pHの調節、水分代謝の調節、神経・筋肉の興奮性の維持などに働きます。
ナトリウムが欠乏した場合に、低張性脱水症(嘔吐、痙攣、下痢)などの症状が見られます。
一方、過剰に摂取しすぎた場合に、高張性脱水症、高血圧症、浮腫などの症状が見られます。
カリウム(K、K+)
カリウムは、細胞内液で最も多い陽イオンです。
細胞膜上のナトリウムポンプ(Na+-K+-ATPアーゼ)の働きによって、ナトリウムと入れ替わるように細胞外から細胞内へ取り込まれ、静止状態の膜電位(静止電位)の発生に関与しています。
また、カリウムも体液の浸透圧維持に関与します。副腎皮質ホルモンのアルドステロンは、腎遠位尿細管でのカリウムイオンの排泄を促進します。
ほかにカリウムは、pHの調節、神経・筋肉の興奮性の維持、酵素(ピルビン酸キナーゼなど)の活性化などに働きます。
カリウムが欠乏した場合に、筋麻痺、痙攣などの症状が見られます。
一方、過剰に摂取しすぎた場合に、神経筋興奮性増大、不整脈、心停止などの症状が見られます。
塩素(Cl、Cl−)
塩素は、細胞外液で最も多い陰イオンです。細胞外液では、陽イオンのナトリウムイオンに伴って振る舞います。胃酸(HCl)や脳脊髄液にも多く含まれます。
塩素は浸透圧の維持、pHの調節、水分平衡などに働きます。
嘔吐などで胃酸を喪失し塩素が欠乏した場合に、低クロール血症の症状が見られます。
硫黄(S)
硫黄は、含硫アミノ酸(Cys、Met)を構成し、タンパク質の成分となります。毛髪や爪のケラチンにはシステイン(Cys)として多く存在します。
ほかに硫黄は、補酵素CoASHやグルタチオンなど-SH化合物、ビタミンB1やビオチン、グリコサミノグリカンの構成成分に含まれます。
鉄(Fe、Fe2+、Fe3+)
鉄は、体内で70%がヘモグロビン、25%がフェリチン、5%がミオグロビンとして存在しています。
ヘモグロビンやミオグロビンに含まれるヘムは、鉄(Fe2+)とポルフィリンの錯体であり、この鉄をヘム鉄といいます。ヘム鉄は酸素分子と結合し、酸素の運搬や保持に働きます。ヘム鉄はほかに、酸化還元反応に関与するシトクロム、カタラーゼ、ペルオキシダーゼなどの酵素にも含まれています。
鉄はほかに、貯蔵鉄や血清鉄として存在します。貯蔵鉄は、肝、脾、骨髄で鉄(Fe3+)がアポフェリチンと結合し、フェリチンとなったものです。血清では、鉄(Fe3+)がトランスフェリンと結合し、各組織へ運搬されます。
また、鉄は酵素(キサンチン酸化酵素)の補因子としても働きます。
鉄が欠乏した場合に、鉄欠乏性貧血などの症状が見られます。
銅(Cu)
銅は、肝臓、腎臓、脾臓、筋肉、骨、脳などに存在し、セルロプラスミンの構成成分となります。
セルロプラスミンは血清中の鉄を酸化する(Fe2+→Fe3+)活性を持ち、鉄の運搬に関与するため、銅が欠乏すると貧血の症状が見られます。
ほかに銅は、酵素(シトクロムオキシダーゼ、SODなど)の補因子としても重要な金属イオンです。
銅が欠乏した場合に、貧血のほか、白血球減少、骨変化、精神発達遅延などの症状が見られます。
ヨウ素(I)
ヨウ素は、体内で20%が甲状腺にあり、甲状腺ホルモン(チロキシン、トリヨードチロニン)の構成成分となります。チロキシン1分子にはヨウ素原子が4つ、トリヨードチロニン1分子にはヨウ素原子が3つ含まれています。そのため、チロキシンをT4、トリヨードチロニンをT3と表します。
ほかにヨウ素は、筋肉、骨、皮膚などに存在しています。
ヨウ素が欠乏した場合に、甲状腺腫、甲状腺機能障害、発育障害などの症状が見られます。
地域によってはヨウ素が土壌に含まれておらず、農産物や水の摂取でヨウ素欠乏症になることがあります。鏡のような湖面で有名なウユニ塩湖の塩にはヨウ素が含まれていないため、後からヨウ素を添加して販売されていました。
亜鉛(Zn)
亜鉛は、肝臓、膵臓、骨、前立腺などに存在し、成長や生殖機能、細胞内シグナル伝達などに関与しています。膵臓では、亜鉛がインスリンとともに分泌され、インスリンの安定化に関与しています。
亜鉛は多くの酵素(アルコール脱水素酵素や炭酸脱水酵素など)の補因子としてもその活性に欠かせない金属イオンです。
また、味蕾の発達に関与し、亜鉛が欠乏した場合に味覚障害の症状が見られます。
亜鉛が欠乏した場合に、味覚障害のほか、皮膚炎、成長障害、創傷治癒遅延、下痢、肝脾腫、貧血などの症状が見られます。
今回のポイント
人体構成元素
- 人体構成元素:
・有機化合物の骨格を構成するもの:C、H、O、N
・無機質(ミネラル)多量元素:Ca、P、S、K、Na、Cl、Mg
・無機質(ミネラル)微量元素:Fe、Cu、I、Zn、Mn、Mo、Se、Co、Cr、Fなど - 水溶液中でイオンを形成し電導性をもつ物質を電解質という。
・細胞内液に多い電解質:K+、Mg2+、HPO42−
・細胞外液に多い電解質:Na+、Cl− - 規定度(当量濃度):溶液1 L中に含まれる溶質の当量(equivalent)数。単位はEq/LまたはN。
主な無機質
- カルシウム(Ca、Ca2+)
・分布:99%骨、歯、1%血液、神経、筋
◆骨、歯でハイドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)を形成する
◆神経の興奮や筋肉の収縮、血液凝固、細胞の分泌、酵素の補因子(α-アミラーゼなど)、細胞内シグナル伝達に働く
◆血清カルシウム濃度は、副甲状腺ホルモン(パラトルモン)やビタミンDによって増加し、カルシトニンによって減少する
・欠乏:低カルシウム血症、骨・歯の石灰化遅延、骨の脆弱化、くる病、骨粗鬆症、テタニー(神経・筋の興奮性が増し、痙攣)
・過剰:高カルシウム血症、ミルクアルカリ症候群 - リン(P、HPO42−、PO43−)
・分布:80%骨、歯
◆骨、歯でカルシウムやマグネシウムの塩となり、リン酸カルシウムやリン酸マグネシウムとして存在する
◆リン脂質(グリセロリン脂質、スフィンゴリン脂質)や核酸(DNA、RNA、ATPなど)にもリン酸(H3PO4)として多くのリンが含まれる
◆細胞内液にリン酸一水素イオンHPO42-として多く存在し、浸透圧やpHの調節に働く - マグネシウム(Mg、Mg2+)
・分布:70%骨、歯、20%筋肉
◆骨、歯でカルシウムやリンとともにリン酸塩や炭酸塩として存在する
◆細胞内液にMg2+として存在し、多くの酵素の補因子(特にキナーゼ類、ムターゼ類、ホスファターゼ類)となる
・欠乏:成長遅延、痙攣、心機能低下、虚血性心疾患
・過剰:筋力低下、昏睡 - ナトリウム(Na、Na+)
・分布:細胞外液
◆細胞外液で最も多い陽イオン
◆浸透圧の維持、pHの調節、水分代謝の調節、膜電位の発生、神経・筋肉の興奮性の維持
・欠乏:低張性脱水症(嘔吐、痙攣、下痢)
・過剰:高張性脱水症、高血圧症、浮腫 - カリウム(K、K+)
・分布:細胞内液
◆細胞内液で最も多い陽イオン
◆浸透圧の維持、pHの調節、膜電位の発生、神経・筋肉の興奮性の維持、酵素(ピルビン酸キナーゼなど)の活性化
・欠乏:筋麻痺、痙攣
・過剰:神経筋興奮性増大、心停止 - 塩素(Cl、Cl−)
・分布:細胞外液、胃酸、脳脊髄液
◆細胞外液で最も多い陰イオン
◆浸透圧の維持、pHの調節、水分平衡
・欠乏:低クロール血症 - 硫黄(S)
・分布:毛髪、爪(ケラチン)
◆含硫アミノ酸(Cys、Met)、補酵素CoASHやグルタチオンなど-SH化合物、ビタミンB1やビオチン、グリコサミノグリカンの構成成分 - 鉄(Fe、Fe2+、Fe3+)
・分布:70%ヘモグロビン、25%フェリチン、5%ミオグロビン
◆鉄(Fe2+)とポルフィリンの錯体でヘムを構成し酸素の運搬・保持に働く(ヘム鉄)→ヘモグロビンやミオグロビン
◆貯蔵鉄:肝、脾、骨髄のフェリチンが鉄(Fe3+)を含む
◆鉄(Fe3+)がトランスフェリンと結合し各組織へ運搬
・欠乏:鉄欠乏性貧血 - 銅(Cu)
・分布:肝臓、腎臓、脾臓、筋肉、骨、脳
◆セルロプラスミンを構成し、血清中の鉄を酸化する(Fe2+→Fe3+)
◆酵素(シトクロムオキシダーゼ、SODなど)の補因子
・欠乏:貧血 - ヨウ素(I)
・分布:20%甲状腺、筋肉、骨、皮膚
◆甲状腺ホルモン(チロキシン、トリヨードチロニン)の構成成分
・欠乏:甲状腺腫、甲状腺機能障害、発育障害 - 亜鉛(Zn)
・分布:肝臓、膵臓、骨、前立腺
◆成長や生殖機能、細胞内シグナル伝達、インスリンの安定化に関与
◆酵素(アルコール脱水素酵素や炭酸脱水酵素など)の補因子
・欠乏:味覚障害、皮膚炎、成長障害、創傷治癒遅延、下痢、肝脾腫、貧血