今回は、生化学の学習を始めるにあたって、知っておきたい最低限の生物学の知識として、生体の成り立ちを確認しましょう。
細胞
生物の体は細胞を基本単位として構成されています。
細胞には大きく原核細胞と真核細胞があります。
原核細胞は、細菌など進化上古い生物の細胞です。原核細胞は、細胞膜と細胞質のみの単純な構造をしていて、核膜に包まれた核が存在していません。
真核細胞は、動物や植物など進化上新しい生物の細胞です。真核細胞は、核膜に包まれた核をもち、細胞骨格や多種の細胞小器官が発達しています。
細胞膜
細胞を包んでいる膜が細胞膜です。
細胞膜は、リン脂質という脂質が二重層になって形成されています。
さらに、細胞膜の膜上にはタンパク質がモザイク状に存在しています。これらはチャネルタンパク質、輸送タンパク質、受容体、酵素など細胞の働きにとって重要な役割を果たしています。
細胞骨格
細胞の中には線維性のタンパク質が張り巡らされています。これを細胞骨格といいます。
細胞骨格は、細胞の形態維持や物質輸送、運動能に関与しています。
主な細胞骨格には、微小管、ミクロフィラメント、中間径フィラメントがあります。
微小管は、チューブリンという球状タンパク質が重合して(つながって)できた直径25 nmの中空の線維です。
ミクロフィラメントは、アクチンという球状タンパク質が重合してできた直径6~7 nmの線維です。アクチンフィラメントとも呼ばれます。
中間径フィラメントは、10 nmくらいの上記2つの中間の直径の線維です。構成するタンパク質にはいくつかあり、ケラチンやビメンチンが代表的です。これらは組織や細胞によって特徴的なものが存在します。
核
細胞のなかでひときわ大きく目立つ存在、それが核です。
核は外膜と内膜の二重膜からなる核膜によって包まれています。核膜には、核膜孔という孔が空いていて、RNAやタンパク質の通路となっています。
核の役割は遺伝物質であるDNAを保管することです。DNAは、核のなかで裸の状態ではなく、ヒストンなどの核タンパク質と結合してクロマチンを形成しています。
また、核内には数個の核小体という構造が見られます。これはリボソームの構成成分となるrRNAに富んでいる場所です。
ミトコンドリア
ミトコンドリアは、外膜と内膜の二重膜構造になっています。そのうち、内膜はひだ状の構造でこれをクリステといいます。また、内膜の中の空間をマトリックス(基質)といいます。
ミトコンドリアの役割はエネルギー物質であるATPを作ることです。マトリックスの部分には、TCA回路や脂肪酸のβ酸化といったATPの産生に関与する酵素が存在しいます。
また、マトリックスにはミトコンドリア独自のDNAやリボソームが存在することが知られています。実は、ミトコンドリアは自分で分裂して増殖できる能力を持っており、これらのことから、ミトコンドリアは好気細菌が進化の過程で共生したものと考えられています。
今回のポイント
細胞
- 生物体の構造と機能の最小基本単位。
- 原核細胞:核をもたず、細胞膜と細胞質のみの単純な構造。細菌など。
- 真核細胞:核や細胞骨格、多種の細胞小器官が発達。動物や植物などの細胞。
細胞膜
- 脂質の二重層からなる。
- 膜にはタンパク質がモザイク状に存在し、チャネルタンパク質、輸送タンパク質、受容体、酵素など細胞にとって重要な役割を果たしている。
細胞骨格
- 細胞質中に張りめぐらされた線維性タンパク質で、細胞の形態維持や物質輸送、運動能に関与する。
- 微小管:チューブリンという球状タンパク質が重合した直径25nmの中空の線維。
- ミクロフィラメント:アクチンという球状タンパク質が重合した直径6~7nmの線維。アクチンフィラメントともいう。
- 中間径フィラメント:上記2つの中間の直径(10nm)。構成タンパク質はケラチン、ビメンチンなど多種で、組織や細胞に特異的である。
核
- 外膜と内膜の二重膜からなる核膜に包まれている。
- 核膜には核膜孔という穴があいており、RNAやタンパク質の通路となる。
- 遺伝物質であるDNAを保管する。DNAは核タンパク(ヒストンなど)と結合してクロマチンを形成している。
- 核内には数個の核小体がみられ、rRNAに富みリボソームの構成成分となる。
ミトコンドリア
- 外膜と内膜の二重膜からなり、内膜のひだ状構造をクリステ、内膜の内腔部分をマトリックス(基質)という。
- エネルギー物質ATPを作る。
- マトリックスにはTCA回路や脂肪酸のβ酸化に関与する酵素が存在する。
- マトリックスには独自のDNAやリボソームがある。
- 自分で分裂して増殖できる。
- 真核細胞に好気細菌が共生した共生体と考えられている。