気になる生化学シリーズ、糖質の次は脂質です。今回は脂質の1回目として、脂質の定義と分類をみていきましょう。
脂質は、糖質やタンパク質に比べて、大きなエネルギーをもっている物質です。そのため、体内で脂肪としてエネルギーを蓄える働きがありますが、過剰に摂取すると健康に悪いイメージがありますよね。
でも、一方で生体に不可欠な細胞膜やホルモンなど様々な生体物質にも脂質は使われていて、欠乏した場合にも健康にはよくありません。
今回はそんな脂質について、次のポイントを中心に確認したいと思います。
- そもそも脂質にはどういう共通点があるの?
- 脂質と脂肪の違いは?
こうした問いに答えられるよう解説したいと思います。
脂質の定義
まずは国語辞典の説明から。脂質については次のように書かれています。
ししつ【脂質】(lipid) –
炭水化物・蛋白質などとともに生体を構成する主な物質群の総称。単純脂質(脂肪・蠟の類)・複合脂質(リン脂質・糖脂質の類)などに分けられる。細胞膜など、生体膜の主要な構成成分。リピド。
出典:広辞苑 第七版(岩波書店、2018)
どうでしょうか?正直なところ、ちょっと言葉ではイメージがわかないかもしれませんね。
では、次の図をみてください。これは3種類の脂質の構造を分子モデル(棒球モデル)で描いたものですが、たくさんあるグレーのものは炭素原子(C)、白いのは水素原子(H)を表しています。
これらの脂質の構造をみると、大部分がCとHで構成されていることがわかりますか?このCとHが連続した部分を炭化水素鎖といいます。
脂質の特徴はこの炭化水素鎖の存在感といえます。脂質に構造上の定義はありませんが、分子構造に長鎖の炭化水素鎖や環状炭化水素などの疎水性部分をもつことが、脂質に共通してみられる特徴です。
また、この疎水性部分の存在が大きいため、脂質は一般的に水に溶けにくく、有機溶媒(クロロホルム、エーテル、ベンゼンなど)に溶けやすいといった性質を示します。
ところで、脂質の脂肪の違いって知っていますか?上の脂質の説明のなかにも、脂肪という言葉がでてきますが、もしかすると脂質も脂肪も漠然と同じイメージを抱いている人が多いかもしれません。
国語辞典による脂肪の説明は次のとおりです。
しぼう【脂肪】(fat) –
油脂のうち、常温で固体のもの。ステアリン酸・パルミチン酸などの飽和脂肪酸のグリセリン-エステルを多く含む。植物では果実および種子、動物では結合組織などにある。生物体の貯蔵物質で、重要なエネルギー給源。
出典:広辞苑 第七版(岩波書店、2018)
油脂!アブラですね。液体なら油、固体なら脂と書く、それが油脂です。
で、脂肪とは??端的に言えば、脂肪は脂質の一種である中性脂肪のことを意味する語です。
ということで、脂質には脂肪以外のものもいろいろとあるのですが、そうした脂質の種類を次で見ていきましょう。
脂質の分類
脂質は、単純脂質、複合脂質、誘導脂質の3つに大別されます。
ここでは、それぞれの特徴を簡単にチェックしておきます。
単純脂質
脂肪酸とアルコールがエステル結合した構造の基本的な脂質を単純脂質といいます。
単純脂質には中性脂肪やロウなどがあります。
ここでいうアルコールとは、炭化水素基に水酸基(-OH)が結合した化合物を総称したものです。単純な構造でよく知られるアルコールに、メタノール(CH3OH)やエタノール(C2H5OH)がありますが、お酒に関連してアルコールというときはこのエタノールだけを意味しています。脂質の構成成分としては、グリセロールやコレステロールといったアルコールがこのあと出てきます。
複合脂質
脂肪酸とアルコール以外に、リン酸基や糖鎖などほかの成分が結合している脂質を複合脂質といいます。
複合脂質にはリン脂質や糖脂質などがあります。
誘導脂質
単純脂質や複合脂質を代謝して得られるその他の脂質を誘導脂質といいます。
誘導脂質にはコレステロール、胆汁酸、ステロイドホルモン、脂溶性ビタミン、テルペノイドなど様々なものがあります。
今回のポイント
脂質の定義
- 脂質は、生体膜の主成分、エネルギーの貯蔵、生理活性物質、自己非自己の目印として働く。
- 構造上の定義はないが、分子構造に長鎖炭化水素鎖や環状炭化水素などの疎水性部分をもつ。
- 一般に、水に溶けにくく、有機溶媒(クロロホルム、エーテル、ベンゼンなど)に溶けやすい。
脂質の分類
- 単純脂質:脂肪酸とアルコールがエステル結合したもの。例)中性脂肪、ロウ
- 複合脂質:脂肪酸、アルコール、その他の成分(リン酸基や糖鎖)が結合したもの。例)リン脂質、糖脂質
- 誘導脂質:単純脂質や複合脂質を代謝して得られるもの。例)ステロイド、脂溶性ビタミン、テルペノイド