気になる生化学シリーズ、今回は脂質の5回目として、誘導脂質を詳しくみていきましょう。
誘導脂質とは、単純脂質や複合脂質を代謝して得られる脂質で、コレステロール、胆汁酸、プロビタミンD、ステロイドホルモン、テルペノイドなどがあります。
今回のクエスチョンはこちら、
- そもそもステロイドってなに?
- ステロイドの仲間の脂質にはどんなのがある?
- テルペノイドってなに?
- エイコサノイドってなに?
こうした問いに答えられるよう解説したいと思います。
ステロイド
ステロイド核は、炭素と水素だけで構成され、3つの六員環と1つの五員環からなる特徴的な構造をもつ化合物です。
3つの六員環を順にA環、B環、C環、五員環をD環と呼びます。
ステロイド核は炭素と水素だけから構成されるため強い疎水性をもち、様々な脂質に共通して含まれる構造です。ステロイド核を含む一連の化合物を総称してステロイドといいます。
ステロイドにはステロール、胆汁酸、プロビタミンD、ステロイドホルモンなどがあります。
ステロール
ステロイド核の3位の炭素に水酸基をもつものをステロールといいます。
代表的なステロールがコレステロールです。
コレステロールは体内に最も多く存在するステロールです。炭素数は27個です。
コレステロールは生体膜を構成するほか、このあと出てくる胆汁酸、ビタミンD3、ステロイドホルモンなどの生合成原料となります。
また、血中では大半が、コレステロールの水酸基に長鎖脂肪酸がエステル結合したコレステロールエステルとして存在します。
胆汁酸
胆汁の主成分である胆汁酸もステロイド核をもつ脂質です。
胆汁酸はコレステロールを原料として肝臓で合成されます。その後、グリシンやタウリンと抱合した後、胆汁となって胆のうに蓄えられ、脂質の消化を助けるために食事に反応して十二指腸に放出される消化液です。つまり、脂質の消化を助けるのも脂質ということです。
胆汁酸は一次胆汁酸と二次胆汁酸にわけられます。
一次胆汁酸は、肝臓で新しく合成された胆汁酸で、コール酸やケノデオキシコール酸があります。一方、二次胆汁酸は、一度分泌された胆汁酸が腸内細菌によって代謝されてできた胆汁酸で、デオキシコール酸やリトコール酸があります。
タウロコール酸、グリココール酸はそれぞれ肝臓で合成されたコール酸にタウリン、グリシンがアミド結合した抱合型の一次胆汁酸です。
胆汁酸は、疎水性を示すステロイド核と、親水性を示すカルボキシ基(-COOH)や硫酸基などの構造をあわせもつ両親媒性の物質です。よって、界面活性作用を発揮して、小腸内で脂肪の乳化剤として働き、脂肪の消化・吸収を助けます。
プロビタミンD
ビタミンDの前駆体であるプロビタミンD2(エルゴステロール)やプロビタミンD3(7-デヒドロコレステロール)はステロールの一種であり、ステロイド核を含みます。
ただし、ビタミンD2やビタミンD3はステロイド核が崩れた構造になります。
ステロイドホルモン
ホルモンの一種にもステロイド核をもつものがあり、それらをステロイドホルモンといいます。
ステロイドホルモンもコレステロールから合成されます。
ステロイドホルモンには、副腎皮質ホルモン、男性ホルモン、女性ホルモンがあります。
コルチゾールとアルドステロンは副腎皮質ホルモン、テストステロンは男性ホルモン、エストロンは女性ホルモンです。
テルペノイド
イソプレンは、炭素5個で、2つの二重結合と枝分かれ構造を持つ化合物です。
このイソプレンを構成単位とする炭素数が5の倍数個となるような天然有機化合物をテルペノイドといいます。イソプレノイドともいいます。これらも炭素と水素を基本とする構造から、疎水性をもつ脂質です。
テルペノイドには柑橘類に含まれるリモネン、ミントに含まれるメントールのほか、ビタミンA、カロテン、スクアレン、リコピンなど多くの物質があります。
テルペノイドは、炭素数10個をひとまとまりとして、モノテルペン(炭素数10個)、ジテルペン(炭素数20個)、トリテルペン(炭素数30個)、テトラテルペン(炭素数40個)などに分類されます。
リモネンやメントールはモノテルペン、ビタミンAはジテルペン、スクアレンはトリテルペン、カロテンやリコペンはテトラテルペンです。
また、テルペノイドは植物に多く含まれていて、強い芳香をもつ物質が多く知られます。
エイコサノイド
アラキドン酸やIPA(EPA)など炭素数20個の多価不飽和脂肪酸に由来する一連の生理活性脂肪酸をエイコサノイドといいます。
エイコサノイドには、プロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエンがあります。
エイコサノイドは、産生部位周辺において生理・薬理作用を示す物質です。こうした物質をオータコイド(局所ホルモン)といいます。
例えば、プロスタグランジンは胃粘膜の保護や子宮筋収縮などの働きをもっています。
今回のポイント
ステロイド
- ステロイド核をもつ一連の化合物を総称してステロイドという。
- ステロール:ステロイド核の3位に水酸基をもつもの。
例)コレステロール:最も多いステロールで肝臓などで合成される。血中では大半が水酸基に長鎖脂肪酸がエステル結合したコレステロールエステルになる。生体膜の構成成分として働くほか、胆汁酸、ビタミンD3、ステロイドホルモンの生合成原料となる。 - 胆汁酸:胆汁の主成分で、コレステロールを原料として肝臓で合成されるステロイド系のカルボン酸。胆汁中の胆汁酸のほとんどが、グリシンまたはタウリンと抱合している。胆汁酸は両親媒性で強い界面活性作用をもち、小腸内で脂肪の乳化剤として働き、脂肪の消化・吸収を助ける。
- プロビタミンD:ビタミンD自体はステロイド核が崩れているが、プロビタミンD2のエルゴステロールやプロビタミンD3の7-デヒドロコレステロールはステロールの一種である。
- ステロイドホルモン:コレステロールから生合成されるホルモン。
例)副腎皮質ホルモン、男性ホルモン、女性ホルモン(卵胞ホルモン、黄体ホルモン)
主なステロイド
- コレステロール、種類:ステロール、炭素数:27個
- コール酸、種類:胆汁酸、炭素数:24個
- コルチゾール、種類:ステロイドホルモン、炭素数:21個
- エストロン、種類:ステロイドホルモン、炭素数:18個
テルペノイド(イソプレノイド)
- 炭素数5個のイソプレンを構成単位とする天然有機化合物をテルペノイド(イソプレノイド)という。植物に多く、一般に強い芳香をもつ。
- 例)モノテルペン(炭素数10)⇒リモネン、メントール
例)ジテルペン(炭素数20)⇒ビタミンA
例)テトラテルペン(炭素数40)⇒カロテン、リコペン
エイコサノイド
- アラキドン酸やIPA(EPA)など炭素数20個の多価不飽和脂肪酸に由来する一連の生理活性脂肪酸をエイコサノイドという。エイコサノイドにはプロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエンがある。
- エイコサノイドは、オータコイド(局所ホルモン)として産生部位周辺への生理・薬理作用を示す。
このページの冒頭部分ですが「複合脂質とは…」になっていますが、誘導脂質ですよね?
ryoさん、こんにちは。
当ブログをご覧いただきありがとうございます。
ご指摘のとおり冒頭に誤植がありましたので修正させていただきました。
貴重なご指摘をいただきありがとうございました。