気になる生化学シリーズ、今回は糖質の2回目として、糖質の構造と異性体をみていきましょう。
今回のクエスチョンはこちら、
- 糖質の異性体はどこが違うの?
- 糖質の誘導体にはどんなものがあるの?
こうした問いに答えられるよう説明したいと思います。
前回に続いて、糖質の構造を詳しくみていきましょう。
糖質の異性体
糖質の構造には、炭素と水素がたくさん含まれていますが、炭素の数と水素の数が同じでも、構造的にはいくつかのバリエーションが生じる場合があります。これを異性体といいます。「有機化合物の構造」で少しお話しましたね。
異性体はいくつかの種類にわけられます。
このうち、糖質で重要な異性体はエナンチオマー(鏡像異性体)です。なぜなら、糖質には不斉炭素原子が多くあるからです。炭素がたくさんあると不斉炭素となる炭素原子も多くなります。そのため、糖質の構造にはいくつものエナンチオマーが存在します。
最初に、最も基本的なエナンチオマーであるD・L異性体を見てみましょう。
D・L異性体
単糖の構造で、カルボニル基(アルデヒド基、ケトン基)から最も遠い位置にある不斉炭素原子を中心にみて、エナンチオマーをD型とL型に区別するのがD・L異性体です。
具体的には、ヘキソース(六炭糖)ではの5位の炭素(C5)がその不斉炭素原子です。
グルコースの例をみてみましょう(※当初こちらの図に誤りがありました。訂正してお詫び申し上げます)。
鎖状の構造式(Fischer式)で描いたとき、C5の水酸基(OH)を右側に描くのをD型、左側に描くのをL型として区別します。同じ名前の糖でも、D型とL型はまったく別物となりますが、天然の単糖類は大部分がD型であることが知られています。
環状構造とアノマー異性体
単糖の構造は鎖状の構造式あるいは環状の構造式で表現されます。鎖状の構造式をFischer式、環状の構造式をHaworth式といいます。Haworth式では、炭素と酸素で環状構造を形成しますが、その環の骨格が六員環ならピラノース環、五員環ならフラノース環といいます。これは呼び名はピランとフランの構造に由来しています。
単糖が環状構造をとるとき、鎖状構造のときには不斉炭素でなかった炭素原子から、新たに不斉炭素になるものが現れます。具体的には、アルドースでは1位の炭素、ケトースでは2位の炭素が新たな不斉炭素になります。この炭素のことをアノマー炭素といい、環状化に伴って生じるこの異性体をアノマー異性体といいます。
こちらもグルコースの例をみてみましょう。
アノマー異性体はα、βに区別します。通常Haworth式で、アノマー炭素につく水酸基(-OH)を下向きに描くのをα、上向きに描くのをβとします。(正確にはアノマー炭素の水酸基が番号の最も大きな不斉炭素に結合した置換基と反対側にあるものをα、同じ側にあるものをβとしますが、なんだか難しい人は気にしないで・・)
また、このアノマー炭素につく水酸基のことをヘミアセタール性水酸基といいます。この水酸基は糖質の結合において重要な役割をもっています。そのあたりはまた糖質の結合で説明しますね。
エピ異性体
単糖の不斉炭素のうち、DL異性体およびアノマー異性体に関連しない不斉炭素によってできる立体異性体をエピ異性体(エピマー)といいます。
次の3つの単糖はエピ異性体の関係にあります。
2,3,4位の不斉炭素につく水酸基の向きで、グルコース(下、上、下)、マンノース(上、上、下)、ガラクトース(下、上、上)と区別されます。
アルド・ケト異性体
グルコースとフルクトースは同じ分子式(C6H12O6)ですが、構造は異なり、片方はアルドースでもう一方はケトースです。これも異性体の一種であり、アルド・ケト異性体といいます。
その他の単糖
単糖としての基本的な構造をもつものが、少し変化することによってできる糖質があり、これらを誘導糖といいます。
アミノ糖
グルコースのC2につく水酸基がアミノ基になったものをグルコサミンといいます。
ウロン酸
グルコースのC6が酸化されカルボキシル基になったものをグルクロン酸といいます。
デオキシ糖
リボースのC2につく水酸基が水素になった(OHのOがとれた)ものをデオキシリボースといいます。デオキシリボースはDNAの重要な成分です。
今回のポイント
糖質の異性体
- エナンチオマーの区別はRS表記法を使うのが一般的だが、アミノ酸や糖ではDL表記法が使われる。
- エナンチオマーのD型とL型の等量混合物をラセミ体といい、旋光性を示さない。
- エナンチオマーのように重ね合わすことができない鏡像関係にある構造をキラルという。
D・L異性体(エナンチオマー)
- 糖質のエナンチオマー(鏡像異性体)では、旋光度の右旋性(dextro)、左旋性(laevo)からD型、L型に分ける。
- 天然の単糖類は大部分がD型である。D-グルコースをデキストロースともいう。
- 実際にはFischer式を描く際、カルボニル基(アルデヒド基orケトン基)から最も遠い位置にある不斉炭素において、結合する水酸基を右側に描くのをD型、左側に描くのをL型とする。
環状構造とアノマー異性体(α・β異性体)
- 水溶液中の五炭糖や六炭糖は大半が環状構造をとる。 このとき酸素を含んだ環の骨格が六員環ならピラノース環、五員環ならフラノース環という。
- 糖質が環状構造をとるとアルドースでは1位の炭素、ケトースでは2位の炭素が新たな不斉炭素となるためアノマー異性体が生じる。通常Haworth式で、この不斉炭素につく水酸基を下向きに描くのをα、上向きに描くのをβとする。
- 環状構造において、アルドースの1位の炭素につく水酸基をヘミアセタール性水酸基、ケトースの2位の炭素につく水酸基をヘミケタール性水酸基といい、この水酸基は反応性に富む。
エピ異性体(エピマー)
- 単糖の不斉炭素のうち、DL異性体およびアノマー異性体に関連しない不斉炭素によってできる立体異性体をエピ異性体(エピマー)という。
- D-ヘキソースでいえば2,3,4位の不斉炭素につく水酸基の向きで、グルコース(下、上、下)、マンノース(上、上、下)、ガラクトース(下、上、上)などのエピマーが生じる。
とってもわかりやすいです。ありがとうございます!
L-グルコースはD-グルコースに対して鏡の関係なので、-OHは全て逆になると思います!
mickyさん、こんにちは。
当ブログをご覧いただきありがとうございます。
ご指摘のとおり誤植がありましたので修正させていただきました。
貴重なご指摘をいただきありがとうございました。
お尋ねです。
Dーグルコース、Lーグルコースは鏡像関係であるため反対になると思うのですが、L型の2,3,4,5位の水素基、水酸基が反対になっていないのはなぜですか?
ランさん、こんにちは。
当ブログをご覧いただきありがとうございます。
当初の図が誤っておりました。大変申し訳ございません。
ご指摘のとおり2,3,4,5位の水酸基が鏡像になるよう修正させていただきました。
貴重なご指摘をいただきありがとうございました。
グルコースのDLのL型が間違っています。
右側の構造はL-グルコースではなく、L-イドースです。
DLが入れ替わると、つまり鏡像になると、不斉炭素原子全部の絶対配置が入れ替わりますから、5位だけ入れ替えたらグルコースではなくなりますよ。
sakさん、こんにちは。
当ブログをご覧いただきありがとうございます。
ご指摘の点、単純なミスに気が付かず大変申し訳ございません。
ご指摘の通り、L-イドースの構造になってしまっておりましたので、鏡像になるよう修正させていただきました。
貴重なご指摘をいただきありがとうございました。
このサイトを見てL-グルコースの構造を間違えた、混乱したという人がYahoo知恵袋に質問投稿しています。
明らかにL-グルコースの構造が間違っていますので、早々に修正するなど対応をしていただけないでしょうか。
某教員さん、こんにちは。
当ブログをご覧いただきありがとうございます。
ご指摘の点、ほかにも多くの方にコメントをいただいておきながら見過ごしてしまいまして心よりお詫び申し上げます。
Yahoo知恵袋までご迷惑をおかけしていたとは・・本当に申し訳ございません。
お問い合わせフォームから投稿いただきましたおかげでようやく気が付くことができました。
当ブログを思いのほか多くの方にご覧いただいていたことに感謝しております。
以後、貴重なコメントを見過ごさないよう注意して参りますのでご容赦いただけましたら幸いです。